私が「耳鼻咽喉科」を選んだ、少し意外な理由

こんにちは。入谷耳鼻咽喉科の副院長の入谷啓介です。
師走に入り、街もあわただしくなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
急な冷え込みで体調を崩しやすい時期ですので、温かくしてお過ごしくださいね。
さて、診察室で患者様とお話ししていると、時折こんなご質問をいただくことがあります。 「先生はどうして、お医者さんになろうと思ったのですか?」 「なぜ他の科ではなく、耳鼻科を選んだのですか?」
医師という職業柄、幼い頃からの強い使命感や、劇的なドラマがあってこの道を選んだと思われることが多いのですが、実は私の場合は少し違います。
今回のブログでは、私が医師になったきっかけ、そしてなぜ「耳鼻咽喉科」という専門分野を選んだのか、その正直な想いをお話ししてみたいと思います。少し個人的な話になりますが、私の人となりを知っていただくきっかけになれば幸いです。
■「気づけばそこに道があった」医師への道のり
私が医師を志した理由。それを聞かれたとき、私はいつも正直にお答えしています。
「何か劇的なきっかけがあって、医師になると決心したわけではないんです」
私の父は耳鼻咽喉科の医師でした。幼い頃から父の背中を見て育ち、家の中に医学書や診療の空気が当たり前にある環境にいました。「医師になる」ということを意識して決断したというよりは、気づいたらそのレールの上にいた、というのが一番近い感覚かもしれません。「大人になったら自分は医者になるものだ」と、子供心に自然と思い込んでいたのです。
もちろん、成長する過程で他の職業に目が向かなかったわけではありません。しかし、ある時ふと立ち止まって考えたとき、「今さら他の道を探すよりも、目の前にあるこの道を極めることが、自分にとって一番自然で、かつ責任を果たせる生き方ではないか」と感じました。
明確な目的意識が最初から燃え上がっていたわけではないというと、少し頼りなく聞こえるかもしれません。しかし、「これしかない」という静かな覚悟が決まった瞬間、迷いはなくなりました。そこからは、ただひたすらに医学の道を歩んできました。
■循環器内科か、耳鼻科か。分かれ道での決断
医学部を卒業し、いざ専門分野を決める段階になったとき、実は大きな迷いがありました。
一つは、父と同じ「耳鼻咽喉科」。 もう一つは、心臓や血管の病気を扱う「循環器内科」でした。
循環器内科は、命に直結するダイナミックな治療を行う科であり、医師としてのやりがいも非常に大きい分野です。当時の私もその魅力に強く惹かれていました。もしかしたら、循環器内科に進んでいた可能性も十分にあったのです。
しかし、最終的に耳鼻咽喉科を選んだ理由。それは、自分自身の性格と、これからの人生を冷静に見つめ直した結果でした。
循環器内科は、夜中の緊急呼び出しも多く、常に緊張感と隣り合わせの激務が求められることが多い科です。もちろん、その厳しさの中に喜びを見出す先生方もたくさんいらっしゃいます。 ですが、私は自分の体力や性格を考えたとき、「夜中に呼び出されるような生活を一生続けることが、自分にとって幸せだろうか? それをポジティブなエネルギーに変え続けられるだろうか?」と自問しました。
ネガティブな理由に聞こえるかもしれませんが、医師という仕事は一生続くマラソンのようなものです。無理をして短距離走のように全力疾走し、途中で息切れしてしまっては意味がありません。「長く、安定して、良い医療を提供し続けるためにはどうすべきか」を考えた末の選択でした。
■「好きすぎない」からこそ、長く続けられる
最終的に耳鼻咽喉科を選んだ最大の理由。 それは、「どうしても耳鼻科が好きだったから」ではありません。 逆に、「どうしても嫌だという理由が見当たらなかったから」です。
これは一見、消極的な理由に見えるかもしれません。しかし、私の中ではこれがとても重要な哲学になっています。
もし、「この仕事が大好きでたまらない!」という熱烈な感情だけで選んでいたらどうなっていたでしょうか。 仕事には必ず、辛いことや思い通りにいかない壁が立ちはだかります。そんな時、「こんなに好きなのに、なんで上手くいかないんだ」と、好きだった感情が反転して、「裏切られた」ような気持ちになり、嫌いになってしまっていたかもしれません。
「好き」と「嫌い」は紙一重です。熱中しすぎると、その反動も大きくなります。
一方で、耳鼻咽喉科に対しては、最初から過度な期待や熱狂はありませんでした。しかし、「嫌ではない」「これならコツコツと続けられそうだ」という静かな確信がありました。 フラットな気持ちで始めたからこそ、日々の診療の中で「あ、こんな治療法があるのか」「患者さんが笑顔になってくれて嬉しいな」という小さな面白味や喜びを、一つひとつ発見していくことができました。
長く続けているうちに、じわじわと味がしみ出してくる。そんな感覚で、私は今、耳鼻咽喉科という仕事に深い愛着とやりがいを感じています。
■日々の診療で大切にしていること
私が耳鼻咽喉科医として大切にしているのは、この「長く続ける」というスタンスです。
耳鼻科の病気には、アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎、難聴など、一度の治療で完治するのではなく、長く付き合っていかなければならないものも多くあります。 そんな時、医師が燃え尽きてしまったり、気分の浮き沈みがあってはいけません。
私がこの科を選んだときのように、無理なく、しかし着実に。 患者様の症状に対して、長く安定した視点で寄り添い続けること。 日々の診療の中で見つかる小さな変化や改善を、患者様と一緒に喜び合うこと。
それが、今の私の医師としてのスタイルであり、入谷耳鼻咽喉科が目指す医療の形でもあります。
派手な動機やドラマチックなエピソードはありませんが、その分、地に足の着いた医療を、ここ神戸の地で提供し続けていきたいと思っています。「なんとなく調子が悪いな」という些細なことでも構いません。どうぞお気軽に相談にいらしてください。
これからも、長く、皆様の健康な生活を支えるパートナーでありたいと願っています。

