冬はなぜ「鼻血」が増える? 正しい止め方と、病院へ行くべきタイミング

こんにちは。入谷耳鼻咽喉科 副院長の入谷啓介です。
12月に入り、急に冷え込んできましたね。街はクリスマスのイルミネーションで華やいでいますが、空気の乾燥が気になる季節でもあります。 この時期、診察室で急増するのが「鼻血(鼻出血)」の患者様です。
「子供が夜中に突然鼻血を出して、布団が血だらけに…」 「朝起きたら枕に血がついていてびっくりした」 「一度止まったと思っても、またすぐに繰り返してしまう」
そんなお悩みを持って来院される方が、冬場は特に多くなります。 突然の出血は、ご本人にとっても、それを見守るご家族にとっても不安なものですよね。
今回は、なぜ冬に鼻血が増えるのか、いざという時の「正しい止め方」、そして「どのタイミングで耳鼻科を受診すべきか」について、現場の医師の視点からお話ししたいと思います。
■なぜ、冬になると鼻血が増えるの?
「ぶつけたわけでもないのに、どうして?」と不思議に思われるかもしれませんが、冬の鼻血の最大の原因は「乾燥」です。
鼻の入り口から少し入ったところには、「キーゼルバッハ部位」と呼ばれる場所があります。ここは血管が網の目のように集中しており、粘膜が非常に薄いため、ちょっとした刺激で出血しやすい構造になっています。
冬はただでさえ湿度が低い上に、暖房器具の使用で室内の空気はさらにカラカラに乾いています。 唇が乾燥してひび割れて血が出ることがあるように、鼻の粘膜も乾燥するとドライフルーツのように硬くなり、ひび割れ(亀裂)が生じやすくなるのです。
この状態で、鼻を少しかんだり、無意識にこすったり、あるいはくしゃみをした拍子に、傷ついた粘膜から出血してしまう。これが冬の鼻血の正体です。
■これだけは覚えておきたい!「正しい鼻血の止め方」
いざ鼻血が出たとき、昔ながらの言い伝えで、間違った対処をしてしまっていませんか? ここで改めて、医学的に正しい止血方法を確認しておきましょう。
【間違い①】
上を向く、首の後ろをトントン叩く これはNGです。上を向くと血液が喉に流れ込み、それを飲み込んでしまうと気分が悪くなったり、嘔吐の原因になります。首を叩いても止血効果はありません。
【間違い②】
ティッシュを固く詰める ティッシュを詰めると一時的に血は止まりますが、取り出すときに固まった「かさぶた」ごと剥がしてしまい、再出血の原因になることがよくあります。
【正解】
②鼻をしっかりつまんで、うつむく
座った姿勢で、軽く下を向きます(うつむき加減)。
親指と人差し指で、小鼻(鼻の膨らんでいる柔らかい部分)を両側から強くつまみます。
その状態で、5分〜10分間、時計を見ながら圧迫し続けます。
ポイントは「骨のある硬い部分ではなく、小鼻の柔らかい部分をつまむ」こと、そして「途中でチラチラ確認せずに、最低5分は圧迫し続ける」ことです。 ほとんどの鼻血(キーゼルバッハ部位からの出血)は、この圧迫止血で止まります。
■「どれくらい」で病院に行くべき?
患者様からよくいただくご質問に、「どの程度の鼻血なら病院に行っていいのでしょうか?」というものがあります。 「たかが鼻血で病院に行くのは大げさかな…」と遠慮される方もいらっしゃるのですが、決してそんなことはありません。
受診の目安に「週に何回以上なら来るべき」といった明確な回数の決まりはありません。
●しかし、以下のような場合は早めの受診をおすすめしています。
●正しい方法で15分以上圧迫しても血が止まらない場合
●洗面器一杯分など、出血量が明らかに多い場合
●一度止まっても、数日おきに何度も繰り返している場合
特に冬場の鼻血は、粘膜が荒れていることが原因の場合が多いため、一度止まっても再発しやすいのが特徴です。「ちょこちょこ出るけれど、すぐ止まるから」と放置していると、いつか大きな出血につながることもあります。
「ちょっとした血がティッシュにつく程度」であっても、それが頻繁に続くようであれば、粘膜のケアが必要なサインです。遠慮なくご相談ください。
■当院での治療と「予防」へのこだわり
鼻血で来院された場合、当院ではまず出血点を特定し、確実に止血処置を行います。 出血が激しい場合は、電気凝固(焼く処置)を行うこともありますが、それだけではありません。
実は、私が大切にしているのは「次の出血を防ぐためのケア」です。
ただ血を止めるだけでなく、乾燥して荒れてしまった粘膜を修復し、再び出血しないように予防することが重要です。 具体的には、鼻の粘膜を保護する軟膏を処方し、ご自宅でのケア方法をお伝えしたり、院内で丁寧に軟膏処置を行ったりします。
診察の際、鼻血の処置は丁寧に行うとどうしても時間がかかってしまうため、他の患者様をお待たせしてしまうこともあり、心苦しい場面もあります。 ですが、鼻血は患者様にとって恐怖であり、生活の質を下げる大きなトラブルです。だからこそ、当院では「たかが鼻血」と済ませず、「予防するための軟膏ケア」を含めて丁寧に対応しています。
■おわりに
これからの季節、鼻血はますます増えていきます。 ご家庭では、加湿器を使って湿度を50〜60%に保つことや、マスクをして寝る(自分の息で加湿されます)などの対策も有効です。
もし、ご自宅での処置で止まらなかったり、繰り返す鼻血に不安を感じたりした際は、いつでも入谷耳鼻咽喉科を頼ってください。 「こんな程度の出血で…」と思わず、安心のために来ていただければと思います。
皆様が、不安なく穏やかな冬を過ごせますように。

